「塩で歯を磨く」という伝統的なオーラルケアについて、現代の歯科医師はどのように考えているのでしょうか。結論から言うと、多くの歯科医師は、日常的な歯磨きの方法として「塩での歯磨き」を積極的に推奨することはありません。むしろ、いくつかの懸念点から、注意を促すことの方が多いでしょう。歯科医師が塩での歯磨きを推奨しない主な理由としては、まず「科学的根拠の乏しさ」と「潜在的なリスク」が挙げられます。塩に期待される殺菌効果や歯茎の引き締め効果は、ある程度の効果がある可能性は否定できませんが、その効果は限定的であり、市販の薬用歯磨き粉や洗口液に含まれる有効成分の方が、より科学的な裏付けがあり、効果も高いと考えられています。また、前述の通り、塩の粒子による「過度な研磨作用」は、歯の表面のエナメル質を傷つけ、摩耗させるリスクがあります。これにより、知覚過敏を引き起こしたり、歯を弱くしたりする可能性があります。同様に、歯茎に対しても物理的な刺激が強すぎ、歯肉退縮を招く恐れも指摘されています。歯科医師は、歯や歯茎にダメージを与える可能性のある方法を、積極的に勧めることはありません。さらに、虫歯予防に非常に有効な「フッ素」が塩には含まれていないという点も、歯科医師が推奨しにくい大きな理由です。フッ素は、歯の再石灰化を促進し、歯質を強化し、虫歯菌の活動を抑制するという、確立された虫歯予防効果があります。現代の歯科予防においては、フッ素の適切な利用が非常に重要視されており、多くの歯科医師はフッ素配合の歯磨き粉の使用を推奨しています。塩での歯磨きは、このフッ素による恩恵を全く受けられないことになります。また、プラーク(歯垢)除去の効率という点でも、塩が特別優れているわけではありません。プラークを効果的に除去するためには、歯ブラシの毛先を歯面に適切に当て、細かく動かすといった「ブラッシング技術」そのものが最も重要であり、何を使って磨くかということよりも、どのように磨くかという方が大切です。歯科医師や歯科衛生士は、個々の患者さんの口腔状態に合わせた正しいブラッシング方法を指導することに重きを置いています。
歯科医は塩での歯磨きを推奨するか