MRI検査は非常に高精度な画像診断法ですが、体内に金属製のインプラントが存在すると、画像の質に影響が出ることがあります。この現象は「アーチファクト」または「金属アーチファクト」と呼ばれ、診断の妨げになる場合があります。アーチファクトは、金属がMRIの磁場や高周波パルスを乱すことによって生じます。具体的には、画像が歪んだり、信号が欠損したり(黒く抜けたり)、あるいは異常な信号(白く光ったり)が現れたりします。インプラントの材質、形状、大きさ、そしてMRIの撮影条件によって、アーチファクトの現れ方や程度は異なります。例えば、歯科インプラントの場合、主成分であるチタンは比較的アーチファクトが少ないとされていますが、それでもインプラントのすぐ近くの画像には歪みが生じることがあります。特に、インプラントが多数埋入されている場合や、インプラントと撮影対象部位が近い場合(例えば、顎顔面領域のMRIで口腔内にインプラントがある場合など)には、アーチファクトの影響が大きくなる可能性があります。整形外科領域で使用される人工関節や金属プレートなども同様に、その周囲にアーチファクトを発生させることがあります。強磁性体の金属(鉄など)が使用されている古いタイプのインプラントでは、より広範囲で強いアーチファクトが生じ、診断が困難になることも少なくありません。医療現場では、この金属アーチファクトをできるだけ低減するための工夫が行われています。例えば、「金属アーチファクト低減シーケンス(MARS: Metal Artifact Reduction Sequence)」と呼ばれる特殊な撮影技術を用いることで、金属周囲の画像の歪みをある程度軽減することができます。また、撮影パラメータの調整や、撮影する体の向きを変えることなども有効な場合があります。しかし、完全にアーチファクトをなくすことは難しく、場合によっては診断に必要な情報が得られないこともあります。そのため、インプラントを装着している方がMRI検査を受ける際には、事前にインプラントの種類や材質を正確に伝え、検査担当医や放射線技師がアーチファクトの可能性を考慮した上で検査計画を立てることが重要です。もしアーチファクトによって診断が困難な場合は、CT検査や超音波検査など、他の画像診断法を代替として検討することもあります。