顎の痛みを訴える患者さんの中で、最も頻度が高いとされるのが顎関節症です。この症状に悩まされているなら、「歯科口腔外科」がまさに専門とする領域です。なぜ歯科口腔外科が顎関節症の専門家なのか、その理由と診療内容を詳しく見ていきましょう。歯科口腔外科は、その名の通り「歯」と「口(口腔)」だけでなく、「顎(顎関節)」、さらには「顔面」領域全般の疾患を対象とする診療科です。大学病院や総合病院の歯科には、通常この歯科口腔外科があり、専門医が常駐しています。顎関節症は、顎関節自体、あるいはその周囲を取り巻く筋肉、靱帯、軟骨(関節円板)といった組織のいずれかに異常が生じることで発症します。これらの構造を詳細に理解し、診断・治療できるのが歯科口腔外科医です。彼らは、顎関節のエキスパートであり、顎の機能解剖学や病理学に精通しています。診療では、まず患者さんの症状(口を開け閉めする際の痛み、クリック音や軋轢音、口が開かない、顎がだるいなど)を詳しく問診し、触診によって顎関節や咀嚼筋の状態を評価します。さらに、顎関節の動きを測定し、開口量や可動域の制限を確認します。正確な診断のためには、画像診断が不可欠です。X線撮影によって骨の異常や変形を確認し、必要に応じてCTスキャンやMRIスキャンを実施します。特にMRIは、顎関節の軟骨である関節円板の状態や、関節包内の炎症などを詳細に評価できるため、顎関節症の確定診断において非常に重要な役割を果たします。これらの診断に基づいて、歯科口腔外科医は顎関節症の病態を分類し、それぞれに適した治療法を提案します。治療法は多岐にわたり、まずは生活習慣の改善指導(硬い食べ物を避ける、頬杖をつかない、ストレス管理など)、薬物療法(痛み止め、筋弛緩剤)、物理療法(温湿布、低周波治療など)といった保存的治療が中心となります。特に効果的なのが「スプリント療法」と呼ばれるマウスピースを用いた治療です。これは、顎関節や咀嚼筋への負担を軽減し、噛み合わせのバランスを整える目的で使用されます。重症例や保存的治療で改善が見られない場合には、関節腔内洗浄療法や外科的治療(関節鏡手術、開口手術など)が検討されることもありますが、これはごく一部のケースに限られます。
顎関節症の疑い?歯科口腔外科が専門です