冷たい飲み物や食べ物が歯にしみる「知覚過敏」。そのつらい症状を和らげるために、様々なケア方法が試みられますが、「塩での歯磨き」は知覚過敏に対して効果があるのでしょうか。むしろ逆効果になる可能性はないのでしょうか。知覚過敏の主な原因は、歯の表面を覆っているエナメル質が何らかの理由で削れたり、歯周病などで歯茎が下がって歯の根元(象牙質)が露出したりすることです。象牙質には、歯の神経(歯髄)に通じる無数の小さな管(象牙細管)があり、外部からの刺激(温度変化、甘味、酸味、歯ブラシの接触など)がこの管を通じて神経に伝わり、しみや痛みとして感じられます。では、塩での歯磨きが知覚過敏に与える影響はどうでしょうか。一部では、塩の収斂作用が歯茎を引き締め、露出した象牙質を覆うことで症状が緩和されるといった期待や、あるいは塩の刺激が一時的に神経を麻痺させるのでは、といった俗説もあるかもしれません。しかし、現代の歯科医学的な観点から見ると、塩での歯磨きは知覚過敏に対して「逆効果」になる可能性が高いと考えられます。その最大の理由は、塩の粒子による「過度な研磨作用」です。粗い塩の粒子で歯の表面を擦ると、ただでさえ薄くなっている可能性のあるエナメル質をさらに削り取ってしまったり、露出している象牙質を傷つけて摩耗させたりする危険性があります。象牙質が摩耗すると、象牙細管がより露出しやすくなり、外部からの刺激が神経に伝わりやすくなるため、知覚過敏の症状は悪化する可能性が高いのです。また、歯茎に対しても、塩の粒子による物理的な刺激は強く、歯肉退縮を助長してしまう恐れもあります。歯肉退縮が進行すれば、さらに広範囲の象牙質が露出し、知覚過敏はより深刻になります。さらに、高濃度の塩分は、露出した象牙質にとって刺激となり、しみや痛みを直接引き起こすことも考えられます。知覚過敏の症状がある場合は、塩での歯磨きは避け、歯科医院を受診して適切な診断と治療を受けることが最も重要です。歯科医院では、知覚過敏の原因を特定し、フッ素塗布やコーティング剤の塗布、あるいは知覚過敏抑制成分(硝酸カリウムなど)が配合された歯磨き粉の使用を推奨するなどの対処法があります。自己判断で誤ったケアを行うと、症状を悪化させることになりかねないので注意が必要です。