昔ながらの歯磨き方法として知られる「塩での歯磨き」。現代でも、健康志向の方や自然派の方の中には、塩で歯を磨くことを実践している人もいるかもしれません。では、実際に塩で歯を磨くことには、どのような効果が期待できるのでしょうか。そして、その効果は科学的に見てどの程度信頼できるのでしょうか。塩での歯磨きに期待される効果として、まず「殺菌・抗菌効果」が挙げられます。塩には浸透圧作用があり、高濃度の塩分環境では細菌の細胞から水分が奪われ、増殖が抑制されると考えられています。このため、口腔内の細菌数を減らし、虫歯や歯周病の原因となる細菌の活動を抑える効果が期待されることがあります。次に、「歯茎の引き締め効果(収斂作用)」です。塩にはタンパク質を変性させる作用があり、これが歯茎の組織を引き締め、炎症を和らげる効果があるとされています。歯茎が腫れている時や、出血しやすい時に、塩を用いることで症状が改善すると信じられてきました。また、「研磨効果」による歯の表面の汚れ除去も期待される効果の一つです。塩の粒子が研磨剤のような役割を果たし、歯の表面に付着したステイン(着色汚れ)やプラーク(歯垢)を物理的に擦り落とすという考え方です。さらに、塩味による「唾液分泌促進効果」も挙げられます。塩味を感じることで唾液の分泌が促され、唾液の持つ自浄作用や抗菌作用、再石灰化作用などが高まることが期待されます。これらの効果は、古くからの経験則や民間療法として語り継がれてきたものです。しかし、現代の歯科医学的な観点から見ると、これらの効果が必ずしも科学的に十分に証明されているわけではなく、また、効果があったとしても限定的である可能性も指摘されています。例えば、殺菌効果を期待するのであれば、塩の濃度が非常に重要になりますが、歯磨き時に適切な濃度を保つことは難しいかもしれません。また、研磨効果については、後述するように歯や歯茎を傷つけるリスクも伴います。塩での歯磨きが持つとされる効果については、過度な期待はせず、あくまで伝統的なケア方法の一つとして捉え、そのメリットとデメリットを冷静に比較検討する必要があるでしょう。