塩で歯を磨くという行為は、一見すると自然で体に優しそうなイメージがあるかもしれません。しかし、現代の歯科医学の観点からは、いくつかのリスクや注意点が指摘されています。塩での歯磨きを実践する前に、これらの点を理解しておくことが非常に重要です。まず、最も懸念されるのが「歯の表面(エナメル質)への研磨作用が強すぎること」です。塩の粒子は、特に粗塩などの場合、非常に硬く、角張っています。このような塩の粒子で歯の表面を強く擦ると、歯ブラシの毛先と相まって、健康なエナメル質を削り取ってしまう(摩耗させる)可能性があります。エナメル質が摩耗すると、その下の象牙質が露出し、知覚過敏(冷たいものがしみるなど)の原因になったり、歯がもろくなったり、かえって着色しやすくなったりすることがあります。また、歯茎に対しても同様に、塩の粒子による「物理的な刺激が強すぎること」が問題となります。硬い塩の粒子で歯茎をマッサージするような行為は、デリケートな歯茎を傷つけ、炎症を引き起こしたり、歯肉退縮(歯茎が下がってしまうこと)を招いたりする可能性があります。歯肉が退縮すると、歯の根元が露出し、知覚過敏や虫歯のリスクが高まります。さらに、「塩分濃度による刺激」も無視できません。高濃度の塩分は、口腔粘膜に対して刺激となり、ヒリヒリとした痛みを感じたり、口内炎を悪化させたりすることがあります。特に、口腔内が乾燥している方や、粘膜が敏感な方は注意が必要です。そして、塩での歯磨きには「フッ素が含まれていない」という点も、虫歯予防の観点からは大きなデメリットと言えます。フッ素には、歯の再石灰化を促進し、歯質を強化し、虫歯菌の酸産生を抑制するという、科学的に証明された虫歯予防効果があります。市販の歯磨き粉の多くには、このフッ素が配合されていますが、塩だけではその恩恵を受けることができません。また、塩で歯を磨いた後の「爽快感」が、プラーク(歯垢)が十分に除去されたと誤解させてしまう可能性も指摘されています。塩味による一時的なスッキリ感で満足してしまい、肝心のプラークが残ったままになっていると、虫歯や歯周病が進行してしまう恐れがあります。
塩で歯磨き潜むリスクと注意点