「塩で歯茎をマッサージすると、歯茎が引き締まって健康になる」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。確かに、昔から行われてきた民間療法の一つですが、その効果と危険性について、現代の歯科医学的な視点から冷静に見ていく必要があります。まず、塩で歯茎をマッサージすることに期待される効果としては、「収斂作用(引き締め効果)」が挙げられます。塩にはタンパク質を変性させる作用があり、これが歯茎の組織を引き締め、炎症を和らげる効果があると信じられてきました。また、マッサージによる「血行促進効果」も期待されるかもしれません。歯茎の血行が良くなることで、組織の新陳代謝が活発になり、抵抗力が高まると考えられます。さらに、塩の「殺菌・抗菌効果」によって、歯周病の原因となる細菌の増殖を抑えることも期待されたかもしれません。しかし、これらの効果が科学的に明確に証明されているわけではなく、また、効果があったとしても限定的である可能性が高いです。むしろ、塩で歯茎を直接マッサージすることには、いくつかの「危険性」が伴います。最も懸念されるのは、「歯茎への物理的な刺激が強すぎること」です。塩の粒子は、特に粗塩などの場合、硬く角張っています。このような粒子でデリケートな歯茎を直接擦ると、歯茎の表面を傷つけ、炎症を引き起こしたり、びらん(ただれ)を生じさせたりする可能性があります。また、長期的に強い力でマッサージを続けると、「歯肉退縮(歯茎が下がってしまうこと)」を招く危険性も否定できません。歯肉が退縮すると、歯の根元が露出し、知覚過敏(冷たいものがしみるなど)の原因になったり、見た目にも影響が出たり、歯周病が進行しやすくなったりします。さらに、「塩分濃度による刺激」も問題です。高濃度の塩分は、歯茎の粘膜にとって強い刺激となり、ヒリヒリとした痛みを感じたり、炎症を悪化させたりすることがあります。特に、すでに歯肉炎や歯周炎で歯茎が弱っている場合には、逆効果になる可能性も考えられます。もし、歯茎の健康を目的としてマッサージを行いたいのであれば、塩ではなく、歯ブラシの毛先や指の腹を使って、優しく行う方法が推奨されます。
塩で歯茎マッサージ効果と危険性