数多くのマウスウォッシュ製品が市場に存在する中で、歯科医師は患者さんにどのような基準で製品を推薦しているのでしょうか。単に「人気だから」「CMでよく見るから」といった理由ではなく、専門家としての視点から、患者さんの口腔内の健康に最も貢献できる製品を選ぶための基準があります。まず最も重要なのは、「患者さんの主訴と口腔内の状態に合致しているか」という点です。例えば、虫歯になりやすい体質の方や、初期虫歯の進行を抑えたい方には、「フッ素(フッ化物)」が高濃度で配合されているマウスウォッシュを推奨します。フッ素には歯の再石灰化促進、歯質強化、細菌の酸産生抑制といった効果があり、虫歯予防に非常に有効です。一方、歯肉の腫れや出血、歯周病が気になる方には、「殺菌成分」や「抗炎症成分」が配合された製品が適しています。殺菌成分としては、塩化セチルピリジニウム(CPC)やイソプロピルメチルフェノール(IPMP)、クロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)などがあり、歯周病原因菌の増殖を抑制します。抗炎症成分としては、グリチルリチン酸ジカリウムやトラネキサム酸などがあり、歯肉の炎症を和らげる効果が期待できます。口臭予防を主目的とする場合は、口臭原因菌に作用する成分や、臭いの元となる揮発性硫黄化合物を吸着・中和する成分が含まれた製品が選択肢となります。次に、「アルコールの有無」も重要な選択基準です。アルコール配合タイプは爽快感が強く、殺菌効果を高める目的で使われますが、ピリピリとした刺激を感じやすい方、口腔内が乾燥しやすい方、子供や高齢者には、刺激の少ないノンアルコールタイプが推奨されます。「香味や使用感」も、患者さんが継続して使用するためには無視できません。効果が高くても、味が好みでなかったり、刺激が強すぎたりすると、毎日のケアに取り入れるのが苦痛になってしまいます。歯科医院では、いくつかのサンプルを用意し、患者さんに試してもらうこともあります。「安全性への配慮」も欠かせません。特定の成分に対するアレルギーの有無や、妊娠中・授乳中であるかなどを確認し、安全に使用できる製品を選びます。これらの要素を総合的に判断し、科学的根拠に基づいて、患者さん一人ひとりに最適なマウスウォッシュを推薦することが、歯科医師の役割です。